■早苗
大丈夫だから。 大丈夫だから、ミーシャ、傍にいるから。 身体にも顔にも酷い火傷を負った妹に向かって とにかく早く手当てをしなければと思った。 ふと、ミーシャの手が俺の頬に触れた。 驚いて、妹の顔に視線を落とす。火傷が痛々しい。 「どうした、ミーシャ」 無理矢理笑ってみようとした。 「お兄ちゃん…」 消え入りそうな小さな声。コイツに似合わない。 「お兄ちゃん、泣かないで」 そして唇が動いた。だいすき、と。
—最初から —もう、助からないと解っていた。
泣かないでと言われたのに俺は泣いていた。 「ミーシャ」 名前を呼んだ。 「ミーシャ。…ミーシャ。ミーシャ」 愛しているから名前を呼んだ。 このまま時間が止まればいいのに。 俺にはこいつしか居なかったのに。たった一人の、
「アガットさん!」 日に透ける長い金髪と青い瞳。チビスケだ。 「アガットさん、寝る時はちゃんとお腹に何か こっちに向かって笑顔で手をヒラヒラさせている。 「はうぅ…」 あからさまにガッカリした様子だが無視しておいた。 遊撃士協会の階段を降りると机の上に 「…ふぇ?全部嫌いですか? ……どれから食べてくれるかを見たら 私まだアガットさんの事全然知らないです。 ミーシャには全然似ていない。 「…何でお前は俺に懐いちまったんだか」 チビスケは妙に真面目な顔をして、覚悟を 「だいすきです」 全く似ていないのに。鮮明に思い出す。 「ティータ」 名前を呼んだ。 妹とは違う存在を、確かめるように。 |