■青水ユエ
【タイトル】 |
特務支援課の平々凡々な日々 〜真夜中〜 |
【作者】 |
青水ユエ |
皿洗いを終えてキッチンから出るとテーブルの
向こうの窓の外で、ふよふよと浮かぶ黒い影を目撃して
私はその場で固まった。
(まさか……………まさか、ねぇ?)
曇りガラス故に形はよくわからない。
だけど、人ではない何かの形が窓の外を右往左往し、
そしてこちらの様子でも窺うかのようにピタリと
止まる。
(誰かのイタズラ、かしら。ええ、きっとそうに
決まってるわ…! ゆ、幽霊なんているわけないのだし
ここで立ち止まってないで、外に出て正体を明らかに
するのよ、エリィ・マクダエル!)
とは思うのだけれど。
でも、もしそこに誰も、何の姿もなかったらと思うと
足がすくんでしまって、
「エリィさん?」
「きゃあっ!!」
あっ、ティオちゃんだったのね……よかった。
あれこれ考えすぎて、足音すら耳に入ってこなかった。
「一体どうしたのですか? まさかオバケでも?」
「ちちち違うのよ、ティオちゃん! ただ、その………
ちょっとそこの窓にちらちら映る黒い影が気になるだけ
で、別に幽霊がこわいってわけじゃ…、」
「黒い影…ですか?」
そう言って、ティオは窓の方へと振り向く。
そうして少し気配を探るように集中したかと思うと、
そのままスタスタと出入り口へと歩いていって
しまった。
「ちょ、ちょっと、ティオちゃん!?」
がちゃっ
「何をしてるんですか、主任。こんな夜中に怪しすぎ
ます。」
「や、やあ、ティオ君! やっと魔導杖の影に気付いて
くれたんだね! ずっとちらつかせてるのに、全然
来てくれないからどうしようかと…、」
「夜ですし、曇りガラスでよく見えませんから。
それに、あれは私ではなくエリィさんです。」
なんだ……黒い影の正体はティオちゃんの上司さんが
持ってた魔導杖だったのね。
そうよ。幽霊なんてこの世にいるわけないわ、ええ。
さあ、今日は日記を書いてもう寝ましょう。
こうして、特務支援課の平々凡々な一日は終わり、
そして続いていく。 |