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■オーバル魔ペットJoya

【タイトル】 空の邂逅
【作者】 オーバル魔ペットJoya

 空には、様々な雲が浮かんでいる。
 細く棚引くもの、綿菓子のようにふわふわしたもの、
風と睦まじく急ぐもの、じっと動かぬもの、船の形、大
入道、渦巻き、思わず声をあげるほど珍しい形のもの…
 だがそれらは皆、儚い存在である。すぐに形を変え、
風に散らされ、あるいは大地に降り注ぎ、あるいは霧と
なり消えていく。

 レンは、ふと、飛行船の窓から雲を見た。
雲をのんびり眺めるなんて、いつぶりかしら…

 地獄から救い出され、ひたすら強さを得た。
死神のように、パテル=マテルを駆り、舞い降りた。
「組織」の風に乗り、興奮の中で世界を見下ろした。
心の触れ合いに戸惑い、惑乱の中、また飛んだ。
空を走り続けながらも、空を眺めることは無かった。
そして、今…
「……」
「…レン? 眠くなっちゃった?」
隣に座っているエステルが声をかけてきた。
レンはエステルを見る。ふんわり、優しい笑顔のエス
テル。レンはまだ、湧き起こる戸惑いを止められない。
こんなに、優しく包んでもらっても、いいのだろうか?
もう普通には生きられない自分を。
あんなに非道いことをこの人達にもしてきた自分を。

 クロスベルからリベールへ向けての飛行船に乗ってか
ら、3人の会話は尽きなかった。だが、どれも他愛ない
話題だった。もっと、何か…伝えたい思い、話しておか
なくてはならない何かがある。レンはそう思った。だが
いつ、どう切り出せばいいのか分からない。それに、考
えがまとまらず、話し出しても支離滅裂になりそうだ。

 つ、着いてから…ゆっくりでいいのかしら。
でも…
「ゆっくりでいいんだよ」
前に座ったヨシュアが、見透かすような言葉をかけてき
た。レンは驚いてヨシュアを見る。
「レン、ほら…見て」
エステルが窓の外を指さす。見ると、不思議な形の…蹲
る猫のような小さな雲が、ぽつんと浮かんでいた。
「仔猫みたいでしょ」
「そうね…でもひとりぼっちで寂しそうね」
自分で言って、ハッとする。少し前までの…自分?

 強い風に流され、吹き散らされるだけの。
独りぼっちのまま、溶けて無くなってしまう…仔猫。

 エステルはレンの手に自分の手をそっと乗せた。
「雲はどこに行くか分からないけど…あたしたちは、家
に帰るのよ。飛んでるけど…自分の足で、歩いてるの」
「……!」

 そうだ。
これからは、歩いていける。
風に流され、飛ばされていくのではなく。
自分の足で、自分の意志で、大地を踏みしめて。
空に浮かぶ、いろいろな雲を眺めながら。

 レンの戸惑いの表情が消えた。笑顔になった。
「エステル詩人みたいね」
「そ、そう? さーてもうすぐ着くわよ。着いたらまず
家に直行! そしてレンの部屋を決めましょ!」

 仔猫の雲は遠くなり、見えなくなった。
…さよなら。
でも…レンは覚えているわ。あなたのこと。

 レンはエステルの手を握り返した。
それからゆっくり目を閉じた。

■オーバル魔ペットJoya

【タイトル】 かくレンぼ
【作者】 オーバル魔ペットJoya

 ある日、王都。レンをティータと遊ばせ、エステルと
ヨシュアは久々に2人で仕事をしていた。今夜は4人で
楽しい食事になるだろう。いそいそと待ち合わせ場所に
向かったが、ティータが向こうから慌てて駆けてきた。

 かくれんぼをしていたらレンが見つからなくなってし
まったという。
「あの子も相変わらずね」
苦笑いをする2人にティータは紙切れを渡した。
「何これ…怪猫…R??」
まるで怪盗Bの書くような謎かけが幾つもある。
「はぁ…悪戯者め」
「謎は2つのルートに別れてる。手分けして探そう」

 ティータを待ち合わせ場所で待たせ、2人は捜索を開
始。謎を解きながら進むとエステルはグリューネ門まで
来てしまった。階段を登りつつぼやく。
「は、範囲広すぎ!見つけたらお仕置きね」

 だが最後の謎が難解だ。
「あの日の約束をこの場所で」何のこと?
屋上へ出てハッとした。夕日を眺める後ろ姿。
「ヨシュア?」
振り向いたヨシュアも驚いた顔をしている。
「君もここに!…同じ場所に繋がる…レンらしいかも」
ヨシュアは笑った。
「笑ってる場合じゃないでしょーに!」
「そのわりに焦ってないね」
「ん?…だって、ただのかくれんぼだもの。レンはもう
本当にいなくなったりはしないわ」
エステルは断言した。ヨシュアも頷く。
「にしても約束って…あ〜分かんない!レン!その辺に
いる?もー降参!出てきて!」
するとエステル達のいる所よりも高い見張り台の上から
声がした。
「…みゃ〜〜ご…」
レンがおずおずと顔を半分見せた。
「そこか〜!降りておいで!」
「2人とも、レンが折角デートの設定してあげたのに!
レンなんて放っておいて夕日を見つめてロマンチックに
なってよ!」
「!」
そうか。この子はそういう策略を。
「レンが行方不明でそんなんなる訳ないでしょ!天才と
は思えない所業!さぁ早く降りてくる!」
戸惑いながら跳んだレンをにエステルは抱き留めた。
「きゃ」
「レン!良かった〜もぉ心配したんだから〜」
怒るどころかエステルは涙声になってしまった。
「…な、なんで…?ごめん…なさい…エステル、泣かな
いで」
レンも目を潤ませる。ヨシュアは安心して微笑し、抱き
合う2人を見ていた。
「大丈夫泣いてない!レンは気を遣ってくれたのね。で
もそんな必要ない!それにデートってこんな場所…あ、
夕日が綺麗だから?」
するとレンは伏し目がちになり、細い声で言った。
「あの…ね…レンは前に…エステルを騙してここに…あ
の時の事…謝りたくて…ぅ…えぅっ」
レンはぽろぽろ涙を零して泣き始めてしまった。あ〜!
そういえばヨシュアの代わりにケビンさんがいたんだっ
け。あはは…忘れてたわ。
「も〜っレン!このこの!可愛いやつめ!」
エステルはレンの頬を摘んでぐにぐに。
「ぅにゅう」
「さ、ティータが待ってる、帰ろ!」
エステルはレンをお姫様だっこしたまま歩き出した。

 ティータは紅茶を飲みながら、ひとりごちた。
「レンちゃんの計画うまくいったかなぁ…?」


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