■オーバル魔ペットJoya
【タイトル】 |
どうしよう |
【作者】 |
オーバル魔ペットJoya |
どうしよう?
レンはテーブルに上半身を突っ伏し自問した。
先刻。不意に眼前に昆虫が現れた。捕獲者エステルの
手と同等の大きさ、尖った角。普通の少女なら悲鳴を?
とレンは考えた。
レンは?
レンは違うわ。
虫が目の前にいて反応の仕方を吟味してる時点で。
…そう、自分は「普通の」少女ではない。底知れぬ暗
闇で、人とは違う何かに作り替えられてしまった。
だが暖かい人達に抱き留められ…深い愛で包まれた。
この数日、新しい「家」に溶け込むため精一杯愛情に
応え「普通」に近づくよう過ごした。
…で、この虫…
これはちょっとピンチね。こんなに間が空いてから怖
がってもわざとらしいし「可愛いー」なんて言うのも変
「今日のお夕食?」なんて冗談も何だか当てはまらない
わ レンらしく反応? でもレンらしくってどんなのか
しら 虫を殲滅しちゃう? そんなのダメよエステルが
悲しむわ うぅぅ もういいわレンは冷静なの そうよ
冷たいのよ
「そんなの近づけないで」
考え倦ねた挙げ句の言葉はそれだった。
冷たく目を逸らした。
その時エステルはどんな顔をしていたか。
悲しいような?
うぅん、何か怪訝な表情をしていた…。
そしてレンを置いてどこかへ行ってしまった。
きっと間違った反応だったんだわ!
…どうしよう。嫌われた?
やっぱりこんな変な…冷たい子、家族にしなきゃ良か
ったって思ったに違いない。
どうしよう。どうしよう。
エステルに嫌われちゃったらヨシュアだってレンを見
捨て…いえ…見限る…かも…?
だめ…レンはダメ。
やっぱり家族になんて。
何だって出来る筈だったのに。
世界を操作できる筈なのに。
こんな事で…躓くなんて。
どうしたらいいか分からないなんて。
きっと…きっと、もう今の内に、出て行ったほう、が
…その時、ちょんちょんとレンの頭に何か細かい物が
触れる感触があった。
レンは顔を上げた…目の前で、先程の虫より大きな黒
い蟷螂が小首を傾げた。
「きゃあぁっ!」
思わず声が出た。
椅子を倒しつつ跳び退り、怒って騒ぐ。
「エ、エステル! な、なん…そんなの、いきなり、も
ぉ、ゆ、許さないから!」
「ごめんねレン〜」
エステルはレンを抱きしめて小さな頭を撫でた。
「レン、今みたいにさ。考えなくていいのよ、反応の仕
方なんて」
「! …え?」
レンはにこにこ笑うエステルの顔をまじまじと見た。エ
ステルは全部分かっていたのだ。
「人間皆違うんだから。こういう時はこう、なんてルー
ルは無い! レンはレンのままでいい、本当のレンでい
いの!」
レンは頬を赤らめ俯く。
「本当のレンなんて…分からないもの」
ぼそぼそ言った。
「じゃ一緒に探していこ」
「本当のレン…もっと酷い子よ…きっと。」
それでも探すの? 上目遣いで聞くレンを、エステルは
また撫でる。
「絶対いい子。賭けてもいい」
レンは自分からエステルにぎゅっと抱きついた。
そして言った。
…知らないから。どんな事になっても。
レン…レン、絶対、もう離れないから。
絶対、出て行ってあげないんだから! |