■アオチ
——ディテクティブ
暗闇を照らし出し、隠された真実を探して、
しかるべき所有者へ返すことを生業とする者。
暗黒に包まれた魔都を照らすには小さ過ぎる光。
しかし、そこに住まう人々の足元を照らし出す、
灯火程度にはなり得るだろう。
私はそう信じている。
その日も私は、自分の探偵事務所で仕事をしていた。
窓の外に見える街は霧がかっている。
と、その時、
トン、トン
控えめなノックの音が部屋に響いた。
「どうぞ、開いてますよ」
ガチャ
現れたのは、10歳を少し過ぎたくらいの少年だった。
「…あの、ここは探偵事務所ですよね?
失踪した母を見つけて欲しいんです」
——話はこうだ
画家だった少年の母親は最近失踪した。
ただその直前、「何かあればこれを信頼できる人に」
という言葉と共にメモを渡されたのだと言う。
『真実は散歩道に』
どうしたらよいかわからず、
この事務所に駆け込んできたらしい。
「報酬は、母が残してくれたお金で払いますので…」
「分かった。では、後は任せてくれ」
そう伝えると、少年はほっとした顔を見せた。
礼を言う少年を帰し、私は立ち上がる。
「絵描きの母親に、『散歩道』か」
答えは自明だ。
私は夜まで少し調べものをした後、
住宅街の外れの画廊『プロムナード』にやってきた。
「散歩道(プロムナード)…」
戦術オーブメントを確認し、
一言気合を込めると画廊に忍び込む。
そこには名の知れた絵画が数多く並べられていた。
「『リベールの華』『女神の微笑み』『モナ・モナ』…
…これらが全て贋作か」
そう、全て。
あの少年の母親である贋作師が描いた偽物。
ここに来る前に情報屋から買い取った情報、
画廊の売買ルートなどから判断すれば。
そして、
「あんたが、贋作師を殺したのか?」
振り向きつつ問い掛けた先には、
こちらに銃口を向けた男。
言葉での返答は無く、
替わりと言うように銃の影が動く。
(問答無用と言うことか!)
私は銃を無視し、男に向かって突っ込んで行った。
パンッ!
キンッ!
銃声と金属音がほぼ同時に響く。
それも無視して、男との間合いを詰め、顎を打つ。
鈍い音とともに、男は無言のままくずおれた。
「アースガード。
魔都の闇を渡り歩くのに、銃への対策は怠らないさ」
——翌日
「——と言うわけで、
君のお母さんを殺した奴は警察に突き出した。
報告は以上だ。
…ショックだったかな」
「…いいえ。何となく、そうじゃないかと…」
少年が顔を上げ、痛々しい微笑みを向けてくる。
しかし心は折れていないようだ。
(…強い子だ)
少年が帰った後、窓から外を眺める。
晴れない私の心の代わりに、
街は少し霧が薄れたように見えた。 |