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■輝咲

【タイトル】 目覚めの刻
【作者】 輝咲

自分ではもう、何年ここにいるのか数えたこともない。

昨日も今日もそして明日も……変わらない悠久の時がゆ
るやかに流れる。人が言えば500年以上…と言うので
あろうが、自分ではもうわからない時間が過ぎていた。

母の胎内に似た…私を形成する青白く輝く温かな羊水の
内部でたゆたうようにまどろみ、そして眠る。

わたしをつつんでくれる優しいかわることのないゆりか
ごの寝床。

暗くて広くて、ぼんやりと光っていてきれいだけれども
少し怖い…世界。

 

それがわたしの知るすべてだった。

 

 

"キーア……"

声が、聞こえたような気がした。

わたしを…よんでる…声?…わたしがキーア…?

ぼんやりとする頭の中でわたしは、キーアという単語を
記憶する。

と、同時にわたしを包んでくれていた温かな寝床が失わ
れていき、不安な気持ちがせり上がってくる。

今までのわたしがなくなってしまうような、変化に戸惑
う自分がいた。

"大丈夫…。"

優しい声が聞こえてきたような気がして、わたしは少し
安心することができた。

"…おいで。"

その声に誘われるように顔を上げると、暗くて顔はみえ
ないものの、手を差し出してくる人が目の前にいるのが
わかる。

この人は大丈夫、怖くない。そんなきがして…わたしは
その人の手に自分の手を重ねた。

"いい子だ…。これからいいところに連れていってあげ
る。でも、もう少しだけ、眠っていてくれるかな…?"

そういいながら手を重ねたわたしをだきあげ、その人は
新しい寝床へと連れて行ってくれた。

新しい寝床は温水のように温かくわたしを包んでくれは
しなかったが、わたしをうけとめてくれた寝床はふんわ
りしていてやわらかかったし、前にいた寝床のように体
をちいさくまるめると意識がふわふわしてきたのが自分
でもわかる。

優しく髪をすき、寝かしつけるような優しい指先でわた
しの頭をなでられると、じっとその人を見上げていたわ
たしのまぶたはわたしの意思に反してゆるゆると閉じら
れていく。

そのまま寝入ってしまうのは…ダメ、と心の中が警鐘を
ならしているのを感じたものの、抗いがたい睡魔がわた
しをおそってくる。

"…おやすみ…"

カチリ、という小さな音とともにわたしとその人を遮る
光が失われ、広がるのは真っ暗の闇。

こわくないと感じたのは間違いだったのか?とおもう反
面、自分の初感を信じてみてもいいのではないか、と今
でもおもう自分がいる。

まどろんでいた場所がかわると…違うところを知ってし
まうと、変化のない今までとは違う…変わるのかもしれ
ない今後に漠然とした不安が感じられた。

光がないのも、不安を増長させた。

でも、大丈夫。あのひとは、もう少しだけ…といったか
ら。

まだみぬ未来へ、灯る希望の光。

まどろんでいくと同時に、記憶が混在し、遠くに押しや
られていくのがわかる。

すべてが消えて行ってしまう。

そうなるまえに、つよく、そう願った。

わたしは…キーア…。
はやく…わたしを…

 

ワタシヲ…ミツケテ…


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