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■亜桜

【タイトル】 とある天使の物語 上
【作者】 亜桜

ずっとずっと昔かもしれないし、今の事かもしれない、
そんな物語。
空の上には空の女神と天使がいました。
天使達は空の女神の使いとして人々に幸せをもたらして
いました。
どの天使も一生懸命にその仕事を果たしていました。
けれども。
「どうして君は何もしようとしないの?」
黒い髪の天使、ラルフが訊ねました。周りの天使はそん
な彼を慌てて連れ戻します。
「メイはね、元々人なの」
「知り合いに預けられて、事故に巻き込まれてしまった
 可哀想な子なの」
金の髪を揺らして、メイは黒い髪の彼に言いました。
「私は幸せになれずに死んだのに。どうして他人に幸せ
 を与えないといけないの?」
黒い髪の彼は、笑顔で言いました。
「それが天使だから。君は人の"メイ"じゃなくて天使の
 "メイ"じゃないか」
「……違うっ!私は天使じゃない!ねぇ、空の女神様!
 どうして私を天使なんかにしたの!火事に巻き込まれ
 た後、どうしてすぐに死なせてくれなかったの!!」
取り乱すメイの手を、彼はそっと握りました。
それはとても暖かな手でした。
そしてラルフは、彼女に話しかけた理由を話し始めまし
た。
「メイの両親は今、とても大変な事になっているんだ」
「……えっ…」
「君が天使になれた理由は多分それだよ」
「か、関係ない!パパも、ママも私の事なんかどうでも
 良かったんだから!悲しんでもくれてない!」
「…両親を幸せに出来れば分かるよ。君の事をどう思っ
 ているのかも」
「幸せに…?」
手を握ったまま、彼はゆっくりと頷きました。
「僕らは天使だ。…知りたいのなら、君に何が出来るか
 は…分かるよね」
「!!」
メイはラルフの手を離し、しっかりした目で前を見まし
た。
そんな彼女を、彼は微笑みながら見て、
「僕も手伝うよ。少しだけなら」
「…ありがとう」
「皆、少しだけよろしくね」
周りにいる天使達は静かに頷きました。

■亜桜

【タイトル】 とある天使の物語 下
【作者】 亜桜

それから2年間、二人はメイの両親とその周囲を幸せに
していきました。
彼らだけを幸せにする事はできず、周囲とのバランスを
取りつつ、少しずつ、少しずつ。
「やっと…落ちつけるんですか?」
両親の前に立つ遊撃士が頷きました。
「よかった…よかった…!」
その様子を空の上から見ていたラルフはほっと安心しま
した。
「やっと終わったんだ…よかったね」
「…ええ。ラルフのおかげよ」
「嬉しくなさそうだね?」
「分からなかったもの。私の事をどう思っているのかな
 んて」
「…そっか。僕は分かったのにね」
空の下で、メイの両親は喜んでいました。
「よかった…!これで娘を迎えに行ける!また3人で…
 いや、4人で暮らせる!」
メイは自分の耳を疑いました。
「知らないんだ…私が死んだ事」
安心した顔をしていたラルフも驚いています。
「どうしよう…パパとママ、また2年前みたいになっち
 ゃう…」
『なら、会いに行ってはどうですか?』
「空の女神様!?」
「でも天使の姿は見えないんでしょう?」
『ええ。でもあなたはこの2年間、人々を幸せにしまし
 た。…メイ。あなたにごほうびをあげます』
「……?」
『…もしかしたら今のあなたにはとても嫌な事かもしれ
ません。けれど、あなたはきっとこれを望んでいる筈』

「事故…?」
メイのお母さんは手入れのされていない庭と家を見てそ
の前で泣き叫んでしまいました。二人は3年間、知る事
は出来なかったのです。知り合いに起きた事故も、娘の
死も何一つ。
「どうして…どうして…!」
「空の女神よ…!なんて、なんて事を…!!」
『パパ、ママ』
現れたのは、メイでした。メイのお母さんの顔がぱっと
明るくなります。
「メイ…!生きてたのね!?」
メイは首を横に振ります。それを見たお母さんは悲しい
顔に戻って俯いてしまいました。
『メイは死んだの。3年前の事故で』
「じゃあ、どうしてここに?」
『空の女神様のお陰。メイは…パパ、ママ…メイの事、
愛してた?』
「当たり前じゃないか!!」
『本当に?』
「本当よ…!愛してた。いいえ、愛してる!」
お母さんはまた、涙を流して俯いてしまいました。
「メイに苦しい生活を送って欲しくなくて…でも…」
『…良かった。メイが愛されてるって知る事が出来て。
それだけで…』
メイは笑いました。優しい、穏やかな顔でした。
『メイは幸せなんだね。…パパ、ママ』
メイのお母さんはゆっくりと顔を上げました。涙を浮か
べながらも、笑っていました。
次第にメイの体が薄くなっていきます。
「メイ……!!」

『次に生まれる時も、パパとママのところがいいな』

そう言って、メイは消えました。
「…メイ…メイ…!」
「ああ…!いつでも…いつまでも…」
二人の言葉は空に消えていきました。

その半年後、二人には双子の赤ちゃんが生まれました。

心地よい風に少女はスミレ色の髪を遊ばせる。
「そうね。私も…いつか」
ノートを閉じて、窓を開け放して。
今の彼女を受け入れた『家族』の下に。


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