■千歳飴
リベールの海港都市ルーアン。
ここの遊撃士協会の受付を任されている男、その名を
ジャンという。この男、人当たりがよく優秀なのだが、
好奇心が強く不要なことにも首を突っ込みたがるのが玉
にキズである。
そしてもうひとつ。このジャン、遊撃士に手加減なく
仕事を回してくる。観光客も多く、近くにマノリア村や
マーシア孤児院、ジェニス王立学園を持つ、ルーアンで
は、そんなわけで、ジャンも遊撃士たちの多忙に一役買
っているのである。
「それじゃカルナさん、これが今日の分です」
「アンタってばほんと加減ってもんを知らないねぇ。
ロッコたちなんか毎日愚痴をこぼしてるよ」
「彼らはアガットからこき使ってやってくれって言わ
てるからね」
「やれやれ。さて、あたしも行ってくるよ」
「はい、いってっらっしゃい」
室内にはジャンだけが残された。
「さて、急ぎの仕事も無かったし、何するかな」
そんなとき、一人の男性が協会に入ってきた。
「ジャン、ちょいと頼めるかな」
「ハーグさんじゃないですか。今回はどういったご用
件で?」
「いや、大したことじゃないんだが・・・」
約一時間後、疲労感漂うジャンの姿があった。
ハーグの依頼は船の荷降ろしであったのだが、遊撃士
が出払っていたため、しかたなくジャンが手伝ったとい
うわけだ。
「さすがに肉体労働は堪えるね」
コーヒーでも淹れようとしたとき、慌てた様子で新た
な訪問客が現れた。
「ジャンさん、ちょっと依頼なんだけど・・・」
「ああ、今遊撃士がいなくてね。急ぎの依頼でなけれ
ば、また後で・・・」
「うちの子が迷子になったみたいなのよ!」
急ぎの依頼であった。
しばらく街中を探し回ったジャンであったが、迷子は
見つからない。
一度戻ろうと協会にはいると、そこには依頼主の母親
と当の迷子がいたのである。
「ええと、これは・・・?」
「あ、ジャンさん。すみませんねぇ、あの後すぐにリ
シャールさんがこの子を連れてきてくださって」
ジャンはさらにどっと疲れが増した気がした。
この日に限って、小さな依頼が多かった。
ジャンはその後、落とし物捜索やら、観光案内やら、
の依頼をこなした。遊撃士にも劣らない活躍ぶりである
。
日没の頃には。ジャンの疲労はピークに達していた。
数年間の受付業務の中でも、こんな日は初めてだ。
そんな中、扉が開いた。
「うーす、今帰りました〜」
「いや〜、今日も疲れたね〜☆」
「ふん、まぁ楽勝だったけどよ」
不良上がりの三人の準遊撃士が帰還したのだ。
「ああ、君たちか。お疲れ様・・・」
「あれ、なんかジャンの兄貴元気ないんじゃねぇ?」
「なんかあったんすか?」
「はは、まぁいろいろとね・・・」
「け、毎日散々仕事を俺らに押しつけやがるくせに」
「そのことなんだけどさ、君たち明日あたり仕事減ら
そうか?」
この言葉は、一日遊撃士のごとく働いたジャンの心か
らの言葉であった。
しかし・・・
「げ、ジャンの兄貴が仕事減らすとか言ってるよ?」
「後でとんでもねぇ仕事でもくるんじゃねぇの?」
「・・・気味悪ぃな。」
ジャンは苦笑いしながら、遊撃士たちの多忙さを実感
していた。
そして、自分は受付でよかった、と心の底から考えて
いた。 |