■ 囚われた魔法使い ■ 象牙の塔では、連日の会議が行われていた。 ペンタウァ王立魔術アカデミア。 第一級の学術機関であり、同時にペンタウァ王国を影から支える魔術師の集まりである。彼らが結界を張ることによって、王都に魔物たちが入り込まないよう、守っているのだ。 目下、権威あるこの機関には、最大の悩みがあった。 後継者問題である。 王国の歴史と等しく続いたアカデミアを存続させるには、絶対的な実力者が必要だ。知力、魔力、人格共に優れた人材を次の学長に選ばなくてはならない。 しかし、教授会はいくつかの派閥に分かれ、商工ギルドのように利権を争っていた。知力よりは財力、魔力よりは権力、人格よりは世渡りの術である。 とってつけたような大義名分の踊り続ける会議がいつまでも続けられた。 今日もまた、外見だけはとりすました教授たちが、テーブルの周りに集まってくる。 「おかしいな。学長はまだか?」 議場の椅子は全て埋まり、空いているのは卓から少し離れた高いところにある学長の席だけとなった。 金の装飾を施した権威ある席だが、会議から疎外されたようにぽつんと放置されている。 「神経痛の発作が出たのだろう。寄る年波には勝てんよ」 改革派で口の悪い教授がバカにしたように言うと、彼の支持者たちが追従の笑い声を上げた。 対立派の教授連が大げさに眉を顰める。 彼らは口々に「無礼だ」と言ったが、腹の内は大して変わらなかった。 現学長を引きずり下ろして自分が権力を握ろうという点において、満場の企みは同じなのだから。 落ち着きなく騒ぐ教授たちの間に、ひとりの老人が入ってきた。 学長の秘書である。アカデミアの化石と呼ばれる難物で、学長への忠誠が厚い。 口さがないやりとりを聞かれてしまった教授たちは、ばつの悪い顔で押し黙った。 秘書の声が何ものにも邪魔されずに通る。 「学長が魔物たちにさらわれました」 突然の報告に、教授たちは堰を切ったようにわめき出す。 「どんな魔物に?」 「生きているのか、死んでいるのか?」 「まだ、誰が学長になるか決まっていないんだぞ!」 「後継には儀式が必要なんだ、学長はどこだ?」 教授たちは老秘書につかみかからんばかりの勢いで迫った。 「学長は、火山の地下要塞へ連れて行かれました」 老秘書は感情を抑えた低い声で言った。 教授たちは一斉に悲鳴のような声をあげる。 「火山の要塞……今まで幾人もの魔法使いや剣士が踏み込んで、誰も生きて戻らなかった魔物たちの巣窟……」 議場は、また静寂に包まれた。 老秘書は静かな声で言う。 「つまらぬ利権争いをするより、学長の命を助けられるのが真の実力者というものではないでしょうか。それとも王に上奏し、優秀な在野のソーサリアンを頼みますか?」 |
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