■ 呪われたオアシス ■ キアラ姫は、何を見るともなく窓の外を眺めていた。 視界は金色の細長い線でいくつにも切り分けられていた。 足下は宙に浮いて、まったくおぼつかない。 そう、姫は天井から吊り下げられた籠の中にいる。 誰もいない砂漠様式の王宮。 窓から見はるかす街の景色にも、人の姿はない。 動くものと言えば、広場の中心にある噴水のしぶきばかり。 姫自身もまた動かずに座り込んでいた。 が、広場にキャラバンがやってくると突然はじかれたように身を翻し、金の格子をつかんだ。籠から出ようと暴れ始める。 砂埃で黄色くなったキャラバンは、今この街に着いたばかりなのだろう。 オアシスにたどりついた者たちが一番最初に望むのは、水。 灼熱の太陽に痛めつけられた人とラクダが、潤いを求めて噴水に飛び込む。 「飲まないで! その水を飲んではだめ!」 キアラ姫は格子の間から腕を伸ばし、叫んだ。 しかし、広場まで声が届くはずもない。 果たして、噴水にむしゃぶりついていた人とラクダが身をよじりだした。 音は聞こえなくとも、断末魔の苦しみはわかる。 人もラクダも等しく痙攣し、喉をかきむしり、やがて動かなくなった。 姫は、ぐったりと力を失って、へたりこんだ。 見開いた目から止めどなく涙が落ちる。もう何度こんな場面を見ただろう。 「また現れたか。愚かな人間共め」 呆然とする姫の足下から、しゃがれた声が這い登ってきた。 「どうしてこんなひどいことをするのです……」 姫は籠の下へやってきた人物に問いかけた。 「砂漠は私のもの。砂漠王ルワンのものだ。 汚らわしい人間などに足を踏み入れる資格はない」 「それだから、オアシスに毒の呪いをかけたと言うのですか!」 「気の強い姫だ。自分の立場がわかっていない」 籠の下でルワンが何かつぶやくのが聞こえた。 同時に、巨大な蛇が這い登ってきた。キアラ姫は悲鳴を上げる。 蛇は格子に絡みつき、なぶるように牙を見せびらかした。 赤黒い舌や、数珠をこすり合わすような音を立てる尾は、毒を持っている証。 姫は狭い籠の中で逃げ回り、叫び続ける。 やがて恐怖に耐えきれず、気を失った。 ルワンは指先を軽く鳴らし、蛇を消した。幻影の怪物だったのだ。 哀れなカナリヤの籠を見上げて、愚痴ともつかないつぶやきをもらす。 「怖い思いをしたくなければ、早く秘密を吐いてしまえばよいのに」 そして、かぶりを振り振り王宮の地下へと歩いていった。 |
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