■ ロマンシア ■ 「開門、開門!」 ペンタウァ城の前。 ロマンシア王国の旗を掲げた早馬が、蹄の音も荒々しく飛び込んできた。 馬上では汗まみれの使者が肩を上下に揺すっている。 衛兵たちが近づくと、使者は力が抜けたように滑り落ちた。 その背中には、2本の矢が刺さっている。 友国の旗を掲げた者が、このような姿で到着したとなれば、一大事である。 物見櫓に立っていた将軍が駆け下りてきた。 使者は将軍の腕にすがりついて、ありったけの声を絞った。 「セリナ姫が……さらわれました……!」 セリナ姫とは、ロマンシアの第一王女にして王国の象徴である。 可憐な少女でありながら、実は王国の平和を保つ不思議な力を持っている。 そのセリナ姫の不在は、ロマンシア滅亡を意味するのだった。 苦しげに掠れた息を吐きながら、使者は続けた。 「王国に……病気が……蔓延しています……」 「わかった、医者を派遣しよう」 ペンタウァの将軍は、使者の手を握り、力強く約束した。 「……呪いが……恐ろしい呪いが……!」 「うむ、それも案ずるな。我が国には優秀な占い師がおる。 呪いなど、簡単に消し飛ばして見せよう」 将軍の言葉に、使者は微笑んだ。 義務を果たせて満足したかのように目を閉じる。 が、すぐまた両目を見開いて叫んだ。 「セリナ姫を助けてください! 姫はアゾルバ王国に連れて行かれました! ……姫を、どうか!」 使者は将軍の手を強く握った。 やがて、痙攣していた拳がするりとはがれる。 使者は体を弓なりに反らせ、事切れた。 将軍は、使者の見開いた目をそっと閉じた。 立ち上がり、四方の兵に下知する。 「勇者を集めよ! 医者と占い師もだ! ロマンシアを救え!」 |
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