■ 紅玉の謎 ■ 若い商人は、木々の間をひたすら走った。 赤い目を光らせた烏が、急降下してきて背中の行李にくちばしを突き立てた。 烏たちは次から次へと降下してきて、襲いかかってくる。 商人は行李を放り出した。 「どうなっているんだ!?」 平和な筈のエルフの森。 いつも暖かな陽光に溢れ、機織りの上手なエルフたちが楽しく歌っている。 彼は、いつもの取引に来たのだった。 それがなぜ、こんな目に? 走り続けると、木々の間に見慣れた緑の服が見える。 エルフたちだ。 「助けてくれ!」 見知った後ろ姿に安心感を覚え、若い商人は走り寄る。 が、振り向いたエルフの目は赤い光に燃えていた。 鋭利な短刀が、すがりつこうとした若者の眼前で空を切る。 若い商人は慌てて後退した。 烏たちが迫っている。 エルフたちは歯車が軋むような声をあげて、短刀を振り回した。逃げ場はない。 「こっちじゃ!」 目をつむった若者の首根っこを、何者かが強く引っ張った。 突然、背後の大木の中に、体が吸い込まれる。 若い商人は仰のけざまにひっくり返った。いつの間にか木のうろの中にいる。 誰かが後頭部を押さえてくれていた。 「テトばあさん……?」 それは、顔見知りの老エルフだった。 「危なかったな。このうろは、外の者たちには見えんで、安心してよいぞ」 「いったい、何が起きているの?」 若者は起きあがりながら訊ねた。 「一週間ほど前のことじゃ。空から真っ赤な石が落ちてきてな。 その光をまともに見たものは、エルフと言わず動物と言わず、あんな風になってしまったのじゃ。わしは、たまたま織(はた)の目を数えておったから、光を見なかったんじゃが……」 テトばあさんは、がっくりと肩を落とした。 若い商人は老エルフの手を取る。 「わかったよ、おばあさん。僕が助けを呼んでくる」 「しかし、外はあんな有様じゃ」 「大丈夫。さっきはちょっとドジを踏んだけど、脚には自信があるんだ」 若い商人は、危険な森の中へ飛び出した。 |
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