■ 暗黒の魔道士 ■ ロッドを構えた邪悪な者たちが、次から次へと現れた。 八方で振り回されるロッドは、つむじ風のようで防ぎきれない。 見通しの利かぬ洞窟の中。地面は湿り、びっしりと生えた苔に脚を取られる。 齢70を数える魔術師オーサーには、酷な戦いだった。 頭上から、背後から、両脇から。繰り出されるロッドの突き、払い。 オーサーは素早く呪文を唱えて体の回りにバリアを張る。 剣戟の苦手な魔法使いには、これしか方法はない。 だが、物理攻撃を魔法の力だけで押さえるには、かなりの無理がある。 堪えに堪え抜いたところで、分厚いガラスにひびが入る鈍い音が響いた。 バリアを突き破ったロッドがオーサーの後頭部に当たる。 そのまま何も見えなくなった。 薄れる意識の中で、オーサーの心は半世紀前に遡った。 友であり、良きライバルでもあったゲディスとの思い出。 ふたりの実力は伯仲、ただゲディスの心には少しの翳りがあった。 自己中心的で欲深い……人間なら誰もが持ちうる弱い心だが、賢きペンタウァ王は、その翳りを良しとはしなかった。 オーサーだけが宮廷に召し上げられ、ゲディスは放擲された。 いや、放擲されたとゲディスは感じたのだろう。 恨みに駆られた魔法使いは禁忌の術を使った。 民たちの心を操り、ペンタウァを滅ぼそうとした。 オーサーは王の命を受けてゲディスに対峙した。 そして、この手で…… 友の断末魔を思い出したのと同時に、目が覚めた。 あちこち軋む体を起こす。痛いということは、まだ生きている証か。 「老いぼれたな、オーサー」 聞き覚えのある声が耳朶を打つ。 目の前には、若き日と変わらないゲディスがいた。 「……やはり、蘇っていたか」 オーサーは鈍く痛む頭を押さえながら、ゲディスを見上げた。 「俺を封じに来たのだろう? 小賢しい奴だ。 生憎だが、冥界の力を得た俺は、老いぼれごときに倒されたりしない。 今度こそ復讐を遂げる。 ペンタウァを丸ごと地底に叩き落としてやるのだ」 ゲディスは高らかに笑った。 冥界の色を帯びた暗黒のローブを翻し、オーサーから離れる。 ふたりを隔てるように、天井から鋼鉄の格子が降りてきた。 暗い洞窟の一角は天然の独房となり、オーサーを閉じこめる。 「そこで人間たちの悲鳴を聞き続けるがいい。 おまえを殺すのは最後だ。せめてもの友情にな……」 ゲディスは笑いながら去っていった。 |
|
2000 Nihon Falcom Corporation |